Column
サラリーマンの経費(テレワーク・旅費・屋号)の境界線

在宅勤務の電気代、出張の自己負担分、副業の通信費──
同じ「仕事に使ったお金」でも、給与の仕事か副業か、会社が精算済みかで扱いが変わります。
領収書の有無だけで判断せず、まず自分の支出を3つに仕分け、その後に勤務先への確認や記録を進めましょう。
この記事で分かること
- 給与の仕事に伴う自己負担は、事業者の必要経費とは別物です。まず給与所得控除が適用され、一定額を超える対象支出がある場合に特定支出控除を検討します。
- テレワークの通信費・電気料金・備品費は、給与の仕事なら会社の貸与・実費精算・手当を先に確認し、副業なら売上との関係と私用分を分けて考えます。
- 旅費は、本業の出張、単身赴任者の帰宅、副業の移動、私的旅行のどれかによって、使う制度と必要資料が変わります。
- 屋号は個人事業で使う名称で、申告の必須条件ではありません。屋号を付けただけで、生活費が副業の必要経費に変わることもありません。

支出を3つに仕分けてから考える
事業所得や不動産所得などでは、収入を得るために必要な費用を「必要経費」として収入から差し引きます。
一方、給与所得には、勤務に伴う費用をまとめて見積もった「給与所得控除」があらかじめ設けられています。
そのため、会社員がスーツ、昼食、文房具などを自分で買っても、通常はその領収書を給与収入から1件ずつ差し引く仕組みではありません。
会社員の支出を確認するときは、先に次の3つへ分けます。
同じパソコン代や交通費でも、どの活動に使ったかによって扱いが異なるためです。
| 支出の区分 | 基本的な考え方 | 最初に確認する資料 |
|---|---|---|
| 給与の仕事のための 自己負担 | 給与所得控除とは別に、 要件を満たす 特定支出控除を検討 |
|
| 会社から精算・ 支給された費用 | 実費精算か定額手当かを確認。 精算済みの金額を自分の支出として 重ねて申告しない |
|
| 副業のための支出 | 副業の所得計算上、 収入との関係があり、 業務分を明確にできる金額を 必要経費として検討 |
|
迷ったときは、「誰の仕事のために支払ったか」「会社から補填されたか」「どの収入や案件に関係するか」の順で確認します。
この仕分けを先に行うと、同じ費用を会社精算、特定支出控除、副業の必要経費へ重複して含める誤りを防ぎやすくなります。
なお、支出の扱い以前にそもそも自分に確定申告が必要かどうかがはっきりしない場合は、先にそちらを判定しておくと、このあとの整理が速くなります。
日常のテレワーク費は、勤務先への確認が最初の一手
在宅勤務で増える通信費・電気料金・備品費は、まず勤務先の人事・経理部門へ「物品の貸与があるか」「実費精算があるか」「定額の在宅勤務手当があるか」を確認します。
給与明細に手当が載っているか、在宅勤務規程に申請期限や対象費用が書かれているかも確認しましょう。
給与の仕事のために自宅で使ったという理由だけで、通信費や電気料金、机、椅子、パソコン代を給与収入から直接差し引くことはできません。
また、「テレワーク費」という独立した区分が特定支出にあるわけでもありません。
会社が精算する費用と、精算されず自分で負担した費用を分け、後者は支払日・金額・用途を記録します。
会社が業務に通常必要な費用を実費精算する場合と、用途や返還を問わず定額を渡し切る場合では、
従業員への支給額の税務上の扱いが異なります。
これは主に会社側の源泉所得税処理の話であり、従業員が自己負担分をそのまま確定申告で控除できる根拠ではありません。
会社側の処理は国税庁の「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ」で確認できます。

副業を始めたら、屋号より先に経費区分を固める
副業を始めたら、屋号を決める前に、売上と支出の記録方法を決めます。
副業のために自宅のインターネット回線や電気、パソコンを使った場合は、副業収入との関係を示したうえで、業務分を必要経費として検討します。
家事と業務に共通する費用は、全額ではなく、取引記録などに基づいて業務に直接必要な部分を明確に区分します。
たとえば、家賃なら専用作業スペースの面積、通信費なら利用時間や利用状況、電気料金なら使用機器・時間・日数など、
自分の実態に合う根拠を継続して記録します。
国税庁の「必要経費の知識」でも、家事関連費は業務上必要な部分を明らかに区分できる金額に限ると案内されています。
屋号は主に店名や事務所名などの名称を指し、副業で使うことはできますが、確定申告のために必ず持つものではありません。
国税庁のe-Taxソフト(WEB版)の案内でも、事業などを行い屋号がある場合に入力するものと説明されています。
屋号入りの名刺や請求書を作っても、私的な食事、普段着、家族旅行などが自動的に経費へ変わることはありません。
反対に、屋号がなくても、副業収入を得るために必要で、取引記録や利用状況から業務分を説明できる費用は、
必要経費に該当するかを検討できます。
屋号の記載、個人事業の開業届、所得が事業所得か業務に係る雑所得かという区分も別々の論点です。
活動の実態、収入との関係、帳簿や証拠資料から判断します。
副業の規模が大きくなってきたら、マイクロ法人を設立した場合の社会保険料・税金の変化も選択肢に入ってきます。
出張・単身赴任が発生したら、移動目的で制度を選ぶ
| 移動の目的 | 検討する扱い | 確認・保存するもの |
|---|---|---|
| 本業の出張や 現場への移動 | 会社精算を先に確認。 自己負担分は職務上の旅費として 特定支出に該当するか検討 |
|
| 単身赴任先と 自宅の往復 | 一定の帰宅旅費として 特定支出に該当するか検討 |
|
| 副業の打ち合わせ・ 納品・仕入れ | 副業収入を得るために 必要な旅費かを確認し、 副業の必要経費として検討 |
|
| 観光・帰省など 私的な移動 | 原則として生活費。 仕事を一部行っただけで 旅行全体が経費になるわけではない | 仕事と私用の日程・費用を 区別できる資料 |
本業の出張費を会社が全額精算したなら、その金額は本人の自己負担ではありません。
実費の一部だけが精算された場合は、未精算額が職務上の旅費の要件を満たすかを確認します。
単身赴任者の帰宅旅費も対象になり得ますが、勤務地または居所と、生計を一にする配偶者などが住む自宅との間の旅行であることや、
通常必要な支出であることなどの確認が必要です。
副業の旅費は本業の特定支出とは混ぜません。
「いつ、誰と、何のために移動し、どの売上や案件に関係したか」を領収書と一緒に残します。
観光を兼ねた移動は、仕事部分を客観的に分けられるかが重要です。
私的日程を含む旅行代全体を経費とするのではなく、業務との関係を資料で説明できる範囲を個別に確認します。

自己負担が大きい年の特定支出控除
会社精算の有無を確認した結果、給与の仕事に関する自己負担が大きい年は、「給与所得者の特定支出控除」を検討します。
国税庁は対象を、通勤費、職務上の旅費、転居費、研修費、資格取得費、帰宅旅費、勤務必要経費の7区分として案内しています。
勤務必要経費は、職務に関連する図書費、勤務場所で必要な衣服費、職務上の関係者に対する交際費等で、合計65万円が上限です。
詳しい要件は国税庁の「給与所得者の特定支出控除」で確認できます。
控除額は判定基準を超えた部分
判定の基本は、特定支出控除額 = 対象となる特定支出の合計額 - その年の給与所得控除額 × 1/2です。
計算結果が0円以下なら、特定支出控除はありません。
たとえば、該当年の給与所得控除額が仮に140万円で、要件を満たす特定支出が90万円なら、
判定基準は70万円、控除額は20万円です。
90万円全額が戻るのではなく、20万円を給与所得控除後の所得金額から差し引く計算です。
実際の給与所得控除額は税制改正の影響を受けるため、申告する年分の国税庁資料と源泉徴収票を使って確認します。
勤務先への証明依頼は早めに進める
領収書だけでは申告できません。
支出の区分に応じて、勤務先などから「職務に直接必要であったこと」等の証明を受け、特定支出に関する明細書や支払額を示す資料を準備します。
国税庁は特定支出に関する証明書の様式を公開しています。
申告直前ではなく、自己負担が増えたと分かった時点で、人事・経理部門へ発行の可否、申請期限、必要資料を確認しましょう。
確定申告直前に慌てないための年間記録
| 記録する時期 | 行うこと | 残す資料 |
|---|---|---|
| 支払時点 | 給与の仕事、会社精算、副業の どれに関する支出かを記録する |
|
| テレワーク・ 出張の発生時 | 勤務先の規程と精算可否を確認し、 未精算額を分ける |
|
| 副業の取引発生時 | 支出と売上・案件の対応関係、 家事按分の根拠を記録する |
|
| 年末から申告前 | 源泉徴収票で判定基準を確認し、 勤務先の証明を依頼して 重複計上を点検する |
|
よくある質問
Q. 会社員のスーツやワイシャツは経費になりますか?
A. 私生活でも着られる一般的なスーツやワイシャツは、通常、給与収入から必要経費として直接差し引きません。
特定支出の衣服費は、制服、事務服、作業服など勤務場所で着用することが必要な衣服のうち、勤務先による証明等の要件を満たすものを検討します。
Q. 会社員の昼食代やカフェ代は経費になりますか?
A. 日常の昼食や飲み物は、通常は生活費です。
仕事中に食べたという事実だけでは、給与の特定支出や副業の必要経費になりません。
取引先との打ち合わせなど別の業務目的がある場合も、参加者、目的、案件との関係、金額を記録し、該当する所得と制度の要件を個別に確認します。
Q. 社内の飲み会代は特定支出になりますか?
A. 同僚との私的な飲み会や任意参加の懇親会は、参加しただけで特定支出になるわけではありません。
勤務必要経費の「交際費等」を検討する場合は、職務上の関係者への接待・贈答など職務との直接の関係があり、勤務先による証明等の要件を満たすかを確認します。
参加者、開催目的、職務との関係、自己負担額を記録し、単なる社内交流費と混同しないようにしましょう。
Q. 副業用のパソコンや通信費を全額経費にできますか?
A. 副業だけに使っているか、私用と共用しているかで異なります。
共用なら、使用時間や利用状況などに基づいて業務分を明確にし、計算メモを残します。
パソコンなどは取得価額や使用開始時期によって一度に全額を差し引かず、減価償却など別の処理が必要になることもあるため、購入資料を保存して個別に確認します。
Q. 屋号がなくても副業の確定申告はできますか?
A. 屋号がなくても確定申告はできます。
申告で重要なのは、屋号の有無よりも、収入の内容、所得区分、必要経費、帳簿・証拠資料が実態に合っていることです。
屋号を使う場合も、屋号の記載だけで経費が認められるわけではありません。
まとめ
サラリーマンの経費を判断するときは、費目名より先に「給与の仕事」「会社の精算・手当」「副業」のどれに関する支出かを分けます。
給与の仕事の自己負担は特定支出控除の対象と金額基準、勤務先の証明を確認します。
テレワーク費は会社の負担方法、副業費は売上との関係と家事分の区分、旅費は移動目的と精算状況、屋号は名称にすぎないことが重要な判断軸です。
源泉徴収票、勤務先規程、給与明細・精算書、領収書、副業の売上台帳と按分計算メモを並べると、
重複や混同を見つけやすくなります。
判断に迷う費用は、申告直前にまとめて分類するのではなく、支払時点から目的と利用状況を記録しておきましょう。
トランス税理士法人では、サラリーマン・会社員の確定申告や税務相談をサポートしています。
テレワーク費・旅費の特定支出控除や副業の必要経費、所得区分に不安がある方は、
源泉徴収票、勤務先の規程・精算記録、領収書、副業の収支資料と按分計算メモを整理したうえでお気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

- トランス税理士法人 代表税理士
- 1978年生まれ。
東京税理士会所属(登録番号 第140269号)。
明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科修了、MBA取得。
税理士・CFP・1級ファイナンシャル・プランニング技能士として、法人税務から個人税務まで幅広い相談に対応。特に、サラリーマン・会社員の確定申告、税務調査対応、RSU・ストックオプション、不動産所得、副業、各種控除など、給与所得者に起こりやすい税務の論点を中心にサポートしている。
また、税務調査をテーマにした書籍
『〜知らないと損するかもしれない〜 税務調査を受ける前に押さえるべきポイント』
(株式会社KACHIEL)に、共著者の一人として執筆に参加。
コラムでは、複雑になりやすい税金の仕組みをできるだけ分かりやすく整理し、
読者が自分の状況を確認しやすい情報発信を行っている。
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